米国の政治対立・ボトルネック

(自分も含め)大方の予想を超えて、covid-19の流行で世界情勢は半世紀、ひょっとしたら一世紀に一度あるかないかというレベルの重大局面を迎えている。

米国の政治対立

情勢の不安定化に伴い、本邦における政治的対立は激しさを増している。が、報道やSNSを見るに、現在急激に被害が拡大している米国の政治的対立は(元々すごかったが)、本邦以上に激化しているように思える。
特に話題になっているのは、現状かなり被害の大きいNY州のクオモ知事とトランプ大統領の対立である。米大手メディアなどは割と「クオモ知事は英雄・聖人でトランプ大統領は暴君・虐殺者」的な論調のようである。そんなクオモ知事とトランプ大統領の間で、人工呼吸器の支援を巡って揉め事が発生していたようだ。

単に過去の公式発表・報道の時系列を追って見る限り、事実関係についてはトランプ大統領のこの発言には特に誤りはない。
クオモ知事は(どういう試算に基づいてかは分からないが)3~4万台の人工呼吸器を要求し、トランプ大統領は国のストックから数千台を提供した。しかし、結局のところ余剰が発生し(一部倉庫にあるのを把握できていなかったなどのトラブルもあったよう)、クオモ知事は他州に数百台の人工呼吸器を配布するということになっている。なお、クオモ知事本人が「人工呼吸器の不足によって亡くなった人はいない」と発言したことがあったようだ。
NY州の現状(100万人あたり死亡数1000人超え)について、どの時点での誰のどういう判断がどれくらいの影響を与えたのか、誰にもはっきりとしたことは言えないだろう。しかし、事実関係が明らかなこの件についても「クオモ知事は素晴らしいトランプ大統領が悪い」みたいなムードが結構あるようで、そういう政治的対立が国と州の間の意思疎通に混乱をもたらしているのは非常に不幸なことであると感じる。
他にもクオモ知事は、例えば3/28に政府からNYの遮断・隔離の要求に対し「州に対する政府の宣戦布告」とまで言ってトランプ大統領を非難していた(メディアには称賛されていた)。NYCのデブラジオ市長も遮断・隔離を早期に求めていた。この辺りの動きが後々どう評価されるのか、トランプ大統領とその支持者に対する非難にかき消されてスルーされるのかは、地味に注目すべきポイントであるように思われる。
本邦でもPCR検査、マスク、コラボ動画、一律給付がどうのこうのと様々なギスギスポリティカルフェスティバルが繰り広げられているが、地方自治体と政府の間でここまで決定的な実務上のディスコミュニケーションが発生している様子はなく、米国のそれの方が色々な意味で苛烈なのではなかろうか。

ボトルネック

是非はともかくとして、このクオモ知事の呼吸器の一件に関して思ったのは、リソース配分の際には常にボトルネックは意識されるべきであるということである。
人工呼吸器やECMO(人工肺)について医師が発信していたが(まあ容易に想像できることだが)、下手な使い方をするとかえって予後を悪くしたり、ウイルスを撒き散らしたり、運用には相応の訓練を受けた十分な数の人手が必要らしい。併用する薬剤のストック、設置するスペースと病床、医療従事者が着用するマスクやPPE(個人防護具)、バックアップ用の救命設備も必要であろう。もちろん電力も必要である。緊急時においてギリギリの運用がされることもあるだろうが、それを踏まえても必要なものが不足していれば機器は余る。(実際、本邦にはECMOは1400台程度あるらしいが、動かせるのは300台程度らしい)
つまり、総合的に何が足りていないか、現状のボトルネックがどこにあるのかを把握できていない状態で「○○を増やせ」「○○が足りない」といっても無意味ということである。まず議論の前提の確かさを検証しないと、リソースを浪費するだけである。
そもそも物理的・時間的限界を把握することが大事である。本当に不足しているものはいくら大金を積んでも手に入らない(大金もあるかわからない)。何かを一から作るには材料・設備・人手・時間が必要であるし、突貫でやると突貫でやったなりの品質になる(それは甘受せざるを得ない)。簡単な研修で医療従事者や検査技師を育成することはできず、無理に増やすと質が落ちる(最悪居ないほうがマシの水準になる)。負荷が増大し、激務になるとエラーは増える。無理なものは無理というポイントを押さえ、それを踏まえて総合的にボトルネックのどの部分を解消できるかを考えていくしかない
医療従事者からの発信などを見るに、現状本邦においてボトルネックでありかつ公的機関の働きかけで解消の見込みのありそうなポイントはマスクを含むPPE(個人防護具)の供給であろうか。これも各都道府県レベル、各医療機関レベルでかなり差があるだろうし、それも踏まえてなるべく最適に配分していくことが重要であろう。
何にせよ、被害を軽減する上で、まず何が一番、どれくらい足りていないかを把握することが大事である。それから現実的にどれくらい不足を補うことができるか、他のもので不足を補うことができるか、といった順で考えていくしかない。